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日本の医療現場では、データ分析の活用が大きな課題となっています。人材不足や創薬・治療の効率化といった観点から、さまざまなデータの横断的な活用が重要です。
これまで蓄積されたあらゆるデータが一元管理され、活用できれば医療は飛躍的に発展するでしょう。
そこで本記事ではデータ分析の概要やデータサイエンスの現状、課題、そして企業の事例などを詳しく解説します。日本医療のデータ活用について関心のある方は、ぜひご覧ください。
目次
医療データ分析とは
医療データ分析とは、患者の診療情報や臨床試験データなどさまざまなデータを分析し、活用することを指します。1990年代に電子カルテが登場して以降、デジタル化やAIの登場に伴い、医療データ分析は飛躍的に発展しています。
たとえば、これまでは紙のカルテや書籍の論文だったものが、データとして一元管理できるようになりました。そしてシステムやAIを用いれば、これらのデータを抽出し、分析できます。
これにより一層、今までのデータを活かした治療が実現できるようになっているのです。こうした技術はデータサイエンスとも呼ばれ、医療外の分野でも積極的に取り入れられています。
データサイエンティストの役割
データ分析には、データを正しく読みとり分析できる人が必要です。このような人をデータサイエンティストと呼びます。データサイエンティストは統計学やツールの活用に精通しており、ときには業務プロセスの改善提案も行う役割を担っています。
医療現場の場合、ポストドクター(博士号取得者)からデータサイエンティストに転身する人もいます(※1)。データサイエンティストが現場で活躍することで、蓄積されたデータの有効活用が進むでしょう。
日本における医療データ分析の現状
日本では政府主導で医療のデジタル化とデータ活用が進められています。具体的には、政府主管の大規模データベースNDB(National Database)が2013年に本格運用開始。
NDBには2020年12月末時点で、206億件ものレセプト情報が格納されています。この件数は世界最大規模です。
このほかNDBには特定健診・特定保健指導情報も格納されています。これらの情報は厚生労働省の専門委員会の審査を経た上で、第三者(研究機関、企業など)へ提供することが可能です(※2)。
さらに2018年には厚生労働省と独立行政法人医薬品医療機器総合機構(PMDA)が、医療データベース「MID-NET」をリリース。全国23の大病院から400万人を超える規模の医療情報(電子カルテやレセプトなど)を収集・解析しています(※3)。
これらの情報は、⾏政・製薬企業・アカデミアによる利活用が可能です。このように、日本でも医療データ分析を活用する土台は徐々に構築されつつあります。
ただし、全国の医療機関でデジタル化が進んでいるかというと、必ずしもそうではありません。データの元となる電子カルテの普及率は病院で 46.7%、診療所で 41.6%と半分に満たないのが現状です(※2)。
医療業界におけるデータ分析のメリット
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ではなぜ医療業界でデータ分析が必要なのか、メリットを見ていきましょう。具体的には、以下のメリットが挙げられます(※4)。
・患者のQOL向上
・治療・創薬の質向上
・個人に合わせた治療の実現
・創薬の迅速化
・医療コストの削減・効率化
各医療機関に散在している診療情報は、貴重な資料です。これらを統合し、分析すればより効率よく精度の高い治療方法や新薬を生み出せる可能性が高まります。
医師の経験や勘に頼る必要もなくなり、全体的に医療の質の底上げも期待できます。
患者のQOL向上
医療データ分析が進むとデータベースを元に最適な治療を提案できるため、医療の精度が高まります。
その結果、「病院へ行っても良くならない」「医師によって治療の方針も品質も違う」といった事態を防げます。患者の満足度が向上し、健康寿命の延伸などにもつながるでしょう。
治療・創薬の質向上
データ分析を活用すれば、正確な治療を提供できます。今までは医師の勘や経験に頼っていた部分も、データを根拠とすれば患者の信頼感も高まるでしょう。
さらに経験や実績が少ない医師でも、データ分析の普及が進めば質の高い治療を提案できるようになります。このように高精度な医療が普及することも、医療データ分析のメリットです。
創薬現場においても同様です。これまで研究員が手作業で調査していた臨床試験データを一元的にデータ分析できれば、作業効率が大幅に向上します。
個人に合わせた治療の実現
豊富なデータベースと分析環境があれば、患者個人に適した治療方法や薬を提案することにもつながります。
たとえばとりあえず標準的な治療を行い、経過を見て薬や治療法を変えるといった治療方針を取ることはめずらしくありません。
しかしこの方法では、治療が長期にわたる可能性があります。進行の早い病気の場合はとくに、大きなリスクになるでしょう。
そこで医療データ分析の出番です。データの中から患者と同じ条件のサンプルが見つかれば、はじめから患者個人に最適な治療を提案できる場合があります。
これにより入院期間を減らし、薬や治療にかかるコストを下げることも可能です。患者側にも病院側にもメリットがあります。
創薬の迅速化
創薬現場でもデータ分析は重要な役割を担います。創薬には数々の臨床試験が必要とされ、開発には時間と手間がかかります。
しかしあらゆる試験データを分析できる体制が構築されれば、試験前に立てられる仮説の精度が上がります。その結果、より効率のよい創薬が可能となるでしょう。
また成分パターンの検討や臨床実験の実施など、豊富なデータがあれば省ける作業も数多くあります。
医療コストの削減・効率化
データ分析により医療の質が向上することで、治療や投薬期間の短縮につながります。つまり患者も医療機関も、医療コストを削減できるでしょう。
またデータ分析にAIといったITツールを活用すれば、研究開発における人件費も抑えられます。
分析の対象となるRWD(リアルワールドデータ)
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医療データ分析で対象となるのは、RWD(リアルワールドデータ)と呼ばれるデータです。RWDは具体的に、以下のようなデータを指します。
・電子カルテデータ
・レセプトデータ
・ゲノム・オミックスデータ
・DCPデータ
・ウェアラブルデバイス測定データ
・検診データ
・PROデータ
現在上記のデータは各医療機関や個人の管理のもと、散在している状態です。これらのデータを一元化できれば、非常に価値のあるビックデータとして活用できるでしょう。
では、それぞれのデータがどのように管理されているのか見ていきましょう。
電子カルテデータ
電子カルテは、医療機関における診療データです。具体的な内容は以下のとおり。
・問診記録
・検査記録
・経過記録
・処置記録
・手術記録
・処方記録
・会計情報
・紹介状
・診断書 など
一般的に専用のシステム上で作成され、医療機関内のサーバーで保管されます。
電子カルテのデータ保管については厚生労働省がガイドラインを策定(※5)。今後は国際規格を用いて電子カルテの規格を標準化し、医療機関間でデータ共有できるサービスの本格化も検討されています(※6)。
レセプトデータ
レセプトとは、診療報酬明細書を指す言葉です。主に下記の内容が記録されます。
・診療年月日
・患者氏名
・生年月日
・医療機関コード
・保険証情報
・傷病名
・診療報酬内容 など
一般的にはレセプトコンピューターで作成され、医療機関や健康保険組合、調剤薬局など各保険医療機関で保管されます。
電子カルテと同様、レセプト情報も医療機関同士で共有できるようになれば、転院した際も情報がスムーズに引き継がれます。将来的には、紹介状自体が不要になる可能性もあるでしょう。
ゲノム・オミックスデータ
ゲノム(遺伝情報)やオミックス(生体の分子情報)データも、RWDの1つです。主に下記のデータから構成されています(※7)。
・ゲノム(Genome)
・トランスクリプトーム(Transcriptome)
・プロテオーム(Proteome)
・メタボローム(Metabolome)
・インタラクトーム(Interactome)
・セローム(Cellome)
これらのデータは疾患予防や病因解明などの研究に役立てられます。データの管理者は一般的に研究機関です。
国立研究所や大学病院の付属研究所など、充実した研究設備の整った環境で、データが保管されています。
DPCデータ
DPCデータとは、厚生労働省が収集している診療データのことです。収集対象はDPC病院として名乗りをあげた大病院のみで、データはDPCデータベース上でのみ保管されます。医療機関間で連携されることはありません。
急性期入院医療の診療報酬算定を目的としている点についても、電子カルテデータとは異なります。診断と治療内容でデータをカテゴライズするのが特長です。
ウェアラブルデバイス測定データ
ウェアラブルデバイスとは、スマートウォッチのように身に付けられるデバイスのことです。近年ではスマートウォッチを使って体調や睡眠を管理する人も増えています。
こうしたデータも、医療データ解析においては非常に重要です。診察や検査結果に加え、普段のマクロな生活データもあればより正確な診断が可能となります。
検診データ
健康診断や人間ドック、がん検診などの検診データも、RWDの1つです。患者を診察するうえで、検診データは重要な指標となります。
検診データは基本的に、検診を受けた医療機関や本人によって保管されます。しかし医療機関間でデータを共有できれば、どこで検診を行ってもデータを活用できるでしょう。
PROデータ
PROデータとは、患者が自ら症状や生活について評価したデータのことです。こうした主観的なデータも、医療データ解析に役立ちます。
なぜなら患者の認識や価値観が治療結果へどう影響するか、といった分析もできるためです。治験の現場においても、リスク発見や早期の症状悪化防止などに役立ちます。
医療データ分析の課題
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日本の医療データ分析は、以下の課題を抱えています。
・データベースの構築
・セキュリティ面の強化
・データの解析環境
・臨床統計家の育成
これらの課題をどう乗り越えていくかが、重要なポイントとなるでしょう。では、詳しく見ていきましょう。
データベースの構築
現在NDBやMID-NETといったデータベースはあるものの、これらは統合されていません。さらに日本全国のデータを吸い上げられているわけではなく、未だに診療データは散在しています。
また医療データ分析では、患者個人が管理する健診情報やヘルスデータといったミクロな情報も重要です。
今後はよりミクロかつ幅広い情報を、あらゆる関係機関が活用できる体制の構築が求められます。
セキュリティ面の強化
データを活用するということは、インターネットを通じて患者の個人情報をやり取りするということです。どのように管理すべきかは、今後も検討が必要でしょう。
たとえばNDBは、匿名化されたデータベースです。つまりどこの誰のデータか、という情報は分からないようになっています。
しかし匿名化した状態ではできない研究もあるため、一概に匿名にすればよいというものでもありません。
加えて現在の日本では、匿名化した方法を詳細に得ることは法律で禁じられています(※4)。今後より大規模なデータベースが構築される場合、セキュリティ面については争点となるでしょう。
データの解析環境
データがあっても、それを解析できる環境がなければ意味がありません。解析にはAIツールや性能の高いデバイス、それらを使いこなす人材などが必要です。
とくにビッグデータの解析にはスパコンが必要とされ、導入コストの課題が挙げられます。加えて秘匿性の高いデータを扱うため、セキュリティ性の高い通信環境も不可欠です。
現在では特定の機関が解析環境を用意し、データ提供者、利用者双方から相当の利用料を徴収し、運営する仕組みが登場しています(※8)。
このように解析しやすい環境を整えることも、今後の課題です。
臨床統計家の育成
医療データ分析には、臨床統計家の存在が欠かせません。臨床統計家とは、臨床試験でデータを集め、解析する科学の専門家です。
近年ではデータサイエンス学部を設ける大学も登場しています。しかし臨床に精通し、さらに統計学の知識もある人材は、日本において多くありません。
その原因として、教員不足が示唆されています。臨床統計家やその教育体制を充実させることは引き続き、今後の課題となるでしょう(※9)。
医療にデータ分析を活かす企業の事例
医療にデータ分析を活かす企業や組織の事例を見ていきましょう。紹介するのは下記の事例です。
・臨床試験の代わりにデータ分析で希少新薬を承認
・AIによるデータ分析で新薬を開発した事例
・医療データ分析をがんの再発予測に活用
医療におけるデータ分析の活用は、非常に身近な存在となってきています。
臨床試験の代わりにデータ分析で希少新薬を承認
FDA(アメリカ食品医薬品局)では、通常新薬の承認に臨床試験データを必要とします。しかし、臨床試験の代わりにRWDの評価を用いて新薬を承認する事例が2019年に生まれました。
対象となったのは、ファイザー株式会社のパルボシクリブという薬です。パルボシクリブは元々、2017年に女性乳がんの適応で承認されています。一方、男性転移性乳がんについては適応されていませんでした。
しかし男性乳がんは希少な疾患であり治験の実施が困難であることから、RWDでの評価を用いて追加適応を取得(※10)。
これにより、ほかの治験が困難な病に対しても新薬の承認がスムーズに進むことが期待されています。
AIによるデータ分析で新薬を開発した事例
富士通株式会社と国立研究開発法人理化学研究所は、2023年1月に独自の生成AIに基づく創薬技術を開発。
この共同研究は2022年5月から開始されました。具体的には、生成AIで大量の電子顕微鏡画像からタンパク質の構造変化を予測するというものです。
タンパク質にはさまざまな構造変化のパターンがあり、これらを検証するには度重なる実験が必要とされていました。
しかしこのデータ分析技術があれば、従来の手順に比べて10倍以上高速にタンパク質の形態と構造変化の推定が可能になります(※11)。
今後もこうした技術により、新薬開発の効率は飛躍的に向上するでしょう。
医療データ分析をがんの再発予測に活用
2023年、日本電気株式会社と国立研究開発法人理化学研究所、日本医科大学は、前立腺がんを対象とした共同研究を実施しました。
単一の検査結果しかデータ分析できない従来のAIツールに対し、本研究ではマルチモーダルAIを開発。複数の検査データを同時に解析することが可能となりました。
そして実際に、前立腺がんの手術前カルテデータや病理生検画像などを解析。すると手術後から再発までの年数によって、再発メカニズムが異なる可能性が示唆されました(※12)。
このように多角的なデータを分析することで、さらに医療の精度は向上します。
医院レベルのデータ分析にはRPAがおすすめ
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医療データ分析が全国規模まで普及するのは、そう遠くない未来でしょう。医療現場がデジタル化する中、病院やクリニックレベルでもデータを活用する動きが活発化しています。
たとえば患者データを収集して傾向を把握すれば、クリニックの経営に役立てられます。特定の分野の専門外来では、データを収集することでより質の高い治療を考案できるかもしれません。
こうした医院レベルのデータ分析には、RPAツールがおすすめです。RPAとは、ロボティック・プロセス・オートメーションの略称。
ロボットを利用者が自ら開発し、必要な作業を自動化するためのツールです。大量のデータもロボットにより短時間で収集・分析できるうえ、ミスも生じません。
なかでもBizRobo!は、医療機関での導入実績が豊富なRPAツールです。ISMS認証を受けたセキュリティの高さや動作の安定性が高く評価されています。
病院のRPA導入事例
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東京歯科大学市川総合病院では、放射線科の造影剤CT・MRI検査前のeGFR値チェックに多くの時間を要していました。予約状況によっては、1日40件もの作業が発生することもあったそう。
そこでBizRobo!を導入し、該当業務を自動化しました。患者の過去1年分の検査データからeGFR値を抽出し、自動でリスト化します。
さらに造影剤の使用が問題ないかの判定もロボットが行うため、業務は大幅に効率化しました。1件あたり60分ほどかかっていた作業が5分に短縮でき、大きな成果となったそうです。
その後はロボットの稼働数を増やし、現在では医事課や診療情報チーム、薬剤部などで合計9体が稼働しています。
まとめ
医療現場におけるデータ分析は、今後ますます発展していくでしょう。これに伴い、各医療機関でもデジタル化に対応できる体制を整えておく必要があります。
BizRobo!は医療機関での導入実績が豊富なRPAツールです。あらゆる定型作業をロボットで自動化できるほか、データの集計や分析にも活用できます。
医療人材の不足が懸念される昨今、業務効率化の一環として導入されるケースも少なくありません。まずは無料トライアル期間で、分かりやすい画面デザインや操作性をお試しください。
【参考】
※1 「データサイエンティスト」を加工して作成
※2 「医療情報のデジタル化における現状と課題」を加工して作成
※3 「医療情報データベース「MID-NET」について」を加工し作成
※4 「健康医療データの利活用について」を加工し作成
※5 「電子保存の 3 基準の遵守」を加工し作成
※6 「電子カルテ情報共有サービス」を加工し作成
※7 「オミックス医療とは」を加工し作成
※8 「日本の医療情報データ二次利用の現状と課題」を加工し作成
※9 「臨床統計家育成の諸問題」を加工し作成
※10 「健康医療データの利活用について」を加工し作成
※11 「富士通と理化学研究所、独自の生成AIに基づく創薬技術を開発」を加工し作成
※12 「NEC 、理化学研究所、日本医科大学、電子カルテとAI技術を融合し医療ビッグデータを多角的に解析」を加工し作成