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デジタルレイバーグランプリ2023 東海・関西大会 開催レポート ③
8月23日(水)に愛知県名古屋市で、「デジタルレイバーグランプリ2023」の東海・関西大会が開催されました。本日は大会の様子をレポート形式でお届けします。(第3回/全4回)
③医療法人社団たいようのき 木村 卓二 様
「リアル・ソーシャルアントレプレナー賞」を受賞!
早速ですけれども、全国の院長先生向けのメッセージから始めます。「膨大な事務処理から解放されて、質の高い医療に集中したいと思いませんか?」。それから今日ここにいらっしゃっている皆様は、恐らくエンジニアの方、一般企業の開発系の方が多いかなと思います。その方々に対しまして「全国の業務改善に苦しむ診療所のために自分たちの力を何か使えないのかな」というところを紹介したいと思います。
●法人・自己紹介
僕は木村 卓二と申します。通称「キムタム」と呼ばれています。現在、医療法人社団たいようのきという在宅医療専門のクリニックを運営している理事長です。2017年に開業して6年目を迎えている所です。当法人のビジョンとしては「病や障害があっても当たり前にくらせる社会を実現」することです。普通は、診療所の方は何かあったら病院で最期を迎えるということが多いかなと思います。自宅で亡くなられる方は全国で20%ぐらいと言われていますけれども、そのうち最期まで自分の望む医療を受けられる方は10%、残りの10%は自宅にいたらいつのまにか亡くなっているという、警察の介入する案件になります。そういったところで、命や障害というものをもう少し社会の内の中で一般化して、いろんな障壁をなくしていくという取り組みを行っている医療法人です。
本日は一般社団法人メディカルRPA協会の村山理事のご紹介で登壇しておりますが、私はプログラムなどが全然書けない、普通の現役の医師です。今日の話は、僕が取り組んできた。3~4年の医療変革物語として聞いていただきたいと思います。
●医療業界が抱える課題
まず、医療業界がなぜRPAに手を出しているのかということで、医療業界のマクロの視点からお話をさせていただきます。ひとつが医療従事者の人手不足ということです。省庁が発表している資料にも掲載されていますが、これから各業界で労働生産人口が減っていきます。医療業界でも同様で、どんどん担い手が減っています。介護の業界においても日本の方が少なくなってきて、外国の方が次々と導入されています。
一方で僕たちのクリニックの業務ですが、皆さん病院に行ったときに、診察時間は短いのに待たされる時間が長いと思うことがよくあると思います。僕たちが作成している書類を書き出してみたのですが、5分診察した後に皆さんを1時間、2時間とお待たせしている間に、こうした書類を書かなければならないということがありまして、毎日膨大な量になります。
こうした作業をデジタル化していけば、もっと業務効率が上がるんじゃないかという話ではありますが、世の中の医療機関で電子カルテがどれくらい普及しているかというと、一般診療所の中で5割もないんです。これぐらい紙文化が浸透していて、さらに連絡ツールは未だにFAXです。紙とFAXでやるという文化なので、世の中のいろんなデジタルが通用しないというのが診療所です。医師会の連絡もFAXで来て、FAXで返してくださいというのがルールです。
厚生労働省からも、電子文書の指示書の加工は認めないと言われているので、全部紙で作って郵送する形ですので、デジタル化が進みません。こうした環境で思ったことは、医療業界の行先は暗いということです。
●RPA導入のきっかけ
当院がRPAを導入した理由は、そんな中で自分にも何かできることはないかなと思ったことと、人が定着しなかったかというのが一番大きいです。僕がRPAに本格的に取り組むきっかけになったのが、ほとんどのスタッフが退職してしまったことです。RPA導入当時、ドクターが非常勤を含めて10人程度、看護師が1~2人、事務員は4~5人という形で、患者さんが2~300人いるような状況でした。僕たちは訪問診療がメインなので、1日あたり10件くらい診療する形なんですけれど、その中で事務スタッフが2人になり、看護師も辞めてしまったので、スタッフ数は半分くらいになってしまって、それでも業務量は変わりませんので、一斉に辞めてしまった分だけ、残ったスタッフが抱える業務量が倍になってしまったんです。
当時のクリニックスタッフは4~50代の主婦層が多く、紙がないと仕事ができないという状態でした。また紙文化の中で、業務が属人化している部分もありました。在宅医療では医師が患者の自宅に訪問して診療を行うので、診療所には事務スタッフしかいません。その中で、事務スタッフが自分たちのやり方、アナログだけで文化を作っていました。ですので外で起こっている医療の情報と、診療所内の情報に乖離が発生していました。
そんな中で、次に情報をどうやって共有しあっていくかが大切なので、デジタル化必須という方針に変えました。そこで僕が取った作戦が、今は反省しているんですけれど、今週中に紙を全部捨てますという発表をしました。みんな冗談だと考えていたと思うんですけれど、週明けに僕が本当に全部の紙を捨てたので、それに怒ってスタッフが半分ぐらい辞めたという経緯になります。それぐらいデジタル化を強引にやらなければいけなかった歴史がありまして、その頃からRPAはやってみようかな思っていましたので、ここから僕のやり方が加速していったというきっかけです。
けれどスタッフが辞めた時は、1人ぼっちでどうしようと思っていました。こうなってくると、信じられるのはロボットしかいない。当院のRPAは「オリバーくん」という名前を付けて、AIでイラストも作って非常にかわいがっています。
導入した時は、RPAについてすべてを理解していたわけではなく、どれにしようかと探していた時にメディカルRPA協会の存在を知りました。この協会を運営しているのがRPAテクノロジーズ、そして提供しているのがBizRobo!でしたので、これを入れておけば間違いないかなと考えて導入しました。
最初は院内で開発に取り組んでみたのですが、システムエンジニアがいないのでうまくいかず、一旦ストップしました。そして再度取り組んだ時に紹介してもらったのが、パートナー会社の富士フイルムビジネスイノベーションジャパンさんでした。このパートナーさんと協働させていただいて、「プロジェクトオリバー」という形で再開しました。
●医療業務デジタル化の具体例
続いて、医療業務の中でDX化できそうな項目を僕なりに洗い出してみました。医療/診療サービス的には、予約があって、患者さんが受付して、問診して、カルテを記録してまた次回になります。また翌月来たり、2ヶ月後に来たり、訪問したりするので、いろいろな通知などを作っておかなければいけないなと考えてリマインダーを作りました。また最近はオンライン診療だったり、診療に使う電子カルテやAIも使ったりしています。
それから医療機器もカルテと連携しなくてはいけないので、データ連携などはデジタル化できると考えています。あと事務作業でも会計や保険の請求、在庫管理、データ入力などですね。他にも医療データとしてカルテは、あくまでも患者さんの医療の記録を書くだけですので、それをもっと深みを出してやろうと思うと、うちのように病や障害に関係のない生活を実現するとなってくると、そのデータ分析が必要なので、それもデジタルで行っています。あとコミュニケーションツール、医者と事務所の情報が乖離していたという話をしましたけれど、チャットツールを導入しました。まだまだデジタル化できる範囲はたくさんあるかなと思っています。
実際に当院で使用しているシステムはすべてクラウドツールで、電子カルテはセコム医療システムさんのOWELⓇ、医事会計・レセプトは医師会が作っているORCAⓇです。文書管理はGoogle WorkspaceⓇ、コミュニケーションはChatworkⓇ、データベースはkintoneⓇを使っています。そしてこれらをRPAでつなぐことにしました。
RPAの役割としては、電子カルテ連携が一番大きいです。世の中にある汎用のソフトウェアはAPI連携が可能なのですが、電子カルテはセキュリティ強化の関係で対応していないんですね。それで自動化するためにはRPAが必要だったということが導入の決め手になりました。
もう一度整理してみると、書類作成などの定型的な作業、パターン作業、そして電子カルテを超えて行っていく相互乗り換えに関して、RPAがないと対応できないかなと考えました。これを細かく書き出すと(1)定型文の作成 (2)定型文のスキャン、自動仕分け (3)定型資料作成 (4)二重登録 (5)繰り返し処理 (6)電子カルテと他のシステムの相互乗り換えとなります。
RPAを導入してみて気づいたことは、業務改善・効率化にすごくいいなということです。あとは医療安全にも使えるのではないかということで最近取り組んでいます。そして人材育成の3点です。
●BizRobo!の稼働業務
実際にやっていることとしては、訪問看護指示書の作成です。患者1人あたり毎月1枚発行しますので、うちは300人ですから、300枚を毎月作らなければいけません。それから患者さんのFAX仕分け、郵送された書類の仕分けがあります。300枚作ったら300枚帰ってくるので、それだけで600枚あるわけです。患者さんが新しく入ってきたら、新しく作らなければいけないです。それからカレンダーですね、電子カルテの問題なんですけれども、別のところに登録しなければいけないというものがありましてそれを一本化しました。また口座引き落としでいろいろやっているので、それを自動消込していくということもやりました。
最初の指示書については訪問看護指示書といいましたけれど、ケアマネさんに書かなければいけないものもあります。それも300枚くらいあって、全部で毎月1000枚ぐらい書類を作成しています。これを全部自動化しました。
その結果、指示書作成で月6時間の削減、報告書の取り込みや電子カルテの仕分けで月24時間、FAX仕分けも枚数から考えると月20時間、口座引き落としの自動消込で月10時間の削減になりました。またカレンダーの一本化によって転記ミスが0になりました。
そして医療安全の面では、チャットで連絡した内容のカルテ転記に漏れが生じることもあったのですが、ある記号を付けてチャットで送ると、RPAが電子カルテに自動転記するようにしました。それから申し送り簿の作成ですが、夜や翌日の診療のために、電子カルテからkintoneⓇに自動転記する仕組みを作りました。それから訪問診療では、訪問先で医療行為が展開され、様々なドクターが稼働するので、幅広いガイドラインを活用したデータのスタンダードを作る必要がありました。それで「採血アラート」というものを作りました。採血日のデータをkintoneⓇに反映して、ChatworkⓇで報告しています。
こうした取り組みによって、チャットからカルテの転記で月20時間削減して、転記漏れがなくなりました。申し送り簿は90%作成できて、採血はガイドラインに沿ったタイミングでの提案が100%行えるようになりました。これくらいRPAが医療安全に寄与できています。
●RPA導入の効果
まとめると、労働時間は事務スタッフが1日8月時間働くとして、月8日分くらい削減できました。また人件費としては、事務スタッフがそれだけ削減できるとして、300万円くらいの効果が得られています。
他に当法人で得られている効果としては、ルーチンワークが安定化したことと、専門職が事務作業から解放されて、専門性を発揮しやすいということですね。あとは雇うスタッフの人数が減ったことで、経済的な効果が出ていることと、医療安全面で検査漏れがなくなったということです。
●今後のRPA活用構想
これからは、さらに医療の質を高めることにRPAが使えるのではないかと考えています。例えば当法人で行っている医療行為を振り返ってデータベース化し、ダッシュボードを作れば、感染症の予防につなげたりとか、こういう介入をしたとかいう履歴の見える化ができるのではないかと思います。
また採血アラートをさらに細かくガイドラインに沿って行っていくと、より質の高い診療支援につながるのではないかと考えています。こういう検査をしなければいけないとか、こういうタイミングを逃してはいけないとか、そういう内容をRPAで自動提案していくという形です。
続いて地域包括ケアというものがありますけれど、ここで問題となっているのが、データが一本化していないことです。看護ステーション、クリニック、病院などでそれぞれデータを持っていて、それがクローズドに扱われているということです。これらを地域に出すとなると、地域で指定されたツールを使う必要がありますので、二重連絡、三重連絡が発生します。ここにRPAを使って、自動発信・自動受信する仕組みを作れれば、院内で行った発信をそのまま地域指定ツールに持っていくことができますので、情報が一本化できるのではないかと考えています。
このように単純作業から解放されることで、スタッフがより専門性を発揮できるようになるという点で、RPAが人材育成にも使えるのではないかと思っています。時間的・心理的に余裕ができることで、新たなアイデアが生まれたり、地域医療などの取り組みにチャレンジすることができるんじゃないかと感じています。これはまだ構想の段階です。
こうした当法人のRPAの取り組みですが、これが全国に広がっていけば、全国の医療の質が上がっていくんじゃないかと思っています。